言葉に対する感受性には個人差がある。私自身、自分の発する言葉には厳密さと豊かさを兼ね備えることを心がけており、それゆえ言葉に過剰に反応してしまうことがある。特に「ブラウン」という響きには敏感だ。これは、社名「ブラウンリバース」を親会社の社長に肝入りで発表した際、「茶色か、なんかパッとしないな」といった微妙なリアクションを受けたことに端を発している。以降、「ブラウン」は私のパブロフの犬であり、「お茶を濁す」「茶番」「日常茶飯事」「ちゃぶ台返し」「加藤茶」……に条件反射し、そしてなぜか昭和感に溢れ、往々にして庶民的なイメージを漂わせることに、心理的安全性を保っているようだ。

 とりわけ「日常茶飯事」という言葉は、もはや実態と乖離しているのではないかという問題がある。かつて庶民の定番だった茶飯は、白米の普及により日常の座を追われ、今や割烹料理の一品へと昇華してしまった。もはや「日常茶飯事」という表現は、時代にそぐわなくなっており、現代の感覚でいえば、「日常TKG(卵かけご飯)」のほうがしっくりくるかもしれない(当社比)。

 言葉は時代とともに変化し、日常に根ざしていた言葉が、時代の流れの中で別の意味を帯びたり、置き換えられたりするのは面白い。これは、単に生活様式の変化にとどまらず、感性の多様化とも密接に関係している。例えば、「エモい」という言葉は、本来の「emotional」から派生しながら、日本語特有の「切なさ」「感傷」「懐かしさ」といったニュアンスを包括する表現として定着した。「てぇてぇ」に至っては、「尊い」だけでは伝えきれない突き抜けた勢いとテンション、畏敬愛までもを含む言葉へと進化している。こうした新しい表現は、単なるネットスラングにとどまらず、世相が新たな言葉を渇望する中で生まれていると思う。

 このような言葉の進化・変容・創造の背景には、日本語がハイコンテキストな言語であり、非常にニュアンス豊かな表現を可能にする特性がある。一方で、情報を曖昧にする「お茶を濁す」文化が根付いた日本語では、正確な伝達が求められるエンジニアリングのような業種においては、数字や図面を多用しないと意思疎通が難しくなる側面がある。文脈に依存しすぎない英語のほうが仕事しやすいことを経験上わかっており、言いたいことが瞬時に言えないという語学力の問題は一旦脇に置いおいて、私にとっては、新たな表現を生み出し続けることこそが、言葉を通じた社会の自己更新機能そのものであり、時代と共に変化する言語のダイナミズムを象徴しているように思える。

 企業名やサービス名が動詞化する現象も非常に気になる。「ググる」「ネトフる」など、ある種の文化的基盤を持つサービスが、一般的な動詞として機能するようになった。これは単なるブランドの定着ではなく、人々の行動様式そのものが特定の企業名によって表現されるようになったことを意味する。「ブラウンリバース」もその代名詞となることをひそかに狙っていることを公言しておこう。「ちょっとこのブラウン、リバースしとく?」みたいな使われ方は耳障りなので、どなたかカッコいい響きにデザインして欲しい。

 言葉は社会を映し、社会は言葉によって形作られる。「言霊」どおり、言葉には魂が宿る。最後に身近で気になる「すいません」を私にテキストしてくる方へ、私の心の声は(済みません、言葉に敬意を)。

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